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Route 477



2013-01-26

[book] 『iPodは何を変えたのか?』(スティーブン・レヴィ)

iPodは、「成功」という言葉ではとうてい表現しきれないほどの大勝利を収めた。

[p.7より引用]

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今では「iPhoneとiPadの会社」として認知されたりしてそうなAppleだが、本書はそれらの元となったiPodについて、社会に与えた影響をさまざまな角度から記したものだ。 著者がITジャーナリストということで、スティーブ・ジョブズのインフォーマルなコメントが各所に挟まれているのが興味深い。 原著の出版は2006年。iPod classic, shuffle, nanoが世の中に出まわっていて、iPhoneが発表される前年だ。

以下おもしろかったとこ。

第一章 パーフェクト

  • p.18 "「つまり…一千曲分をポケットで持ち運べる、それがiPodだ。」" iPodの最初の発表会。しかし、399ドル(47800円) という価格は高すぎるんじゃないかと思われていた。
  • iPodの発表は911テロと同時期で、この章には当時のアメリカのリアルな雰囲気が書かれている。テーマと関係ないけど、その辺が興味深かった。
  • p.29 "「これ、もう見ました?」" ビル・ゲイツに、発売前のiPodを見せてみる著者。"ゲイツはこの時点で、自分だけの境地に入り込んでしまった。その姿は、SF映画の中でエイリアンが未知の物体に出会ったときに、自分の身体からビームを投射して、その物体から可能な限りの情報を脳に直接吸い上げようとするシーンを思い起こさせた。"

第三章 オリジン

  • p.80 "「そのiMovieが後のiTunesを含む一連のソフトの開発に繋がり、そのiTunesが、後にはiPodの開発につながっていったんだ」とジョブズは言う。"
  • p.93 "この製品が、やがてアップルという企業のあり方を根底から覆し、テクノロジー業界や経済界、そして特に音楽産業の構造までを一変させてしまうと予言する者はいなかった。誰もそんな可能性など考えていなかったからだ。"
  • p.97 iPodの最初のプロトタイプをジョブズの前でプレゼンする話。本命のモデルの他にイマイチなモデルを2つ用意し、本命のやつは木鉢の中に隠してプレゼンを始める。ところが…
  • p.110 "「ジョブズが部屋に入ってきて、開発チームの一人に『iPodだ』って言ったんだ。..."
    • 名前の由来は明らかにされていないが、ジョブズと広告代理店の長い会議の末に決まったらしい。

第四章 クール

  • p.124 "ヴァルディは最後に、クールさを意図的に作り出すのは不可能だという結論に達した。結局、企業は常に完璧なものを目指して努力し続け、後は神が微笑みかけてくれるのを待つしかないのだ。"
  • p.135 iPodのCMは、"「世の広告キャンペーンの99%と違って、..." 製品がもともと持っているクールさを際立たせるだけで充分だった。
  • p.142 "僕は、擦り傷のついたステンレスを美しいと思うけどね。僕たちだって似たようなもんだろう?僕は来年には五十歳だ。傷だらけのiPodと同じだよ。" -- iPodのカバーについて、スティーブ・ジョブズ
    • すい臓がんの診断を下される前の話。
  • p.148 初代iMacについて、競合他社が見た目だけを真似るというジョブズの愚痴。"iMacはキャンディ色のコンピュータじゃない。本当に静かで、ファンレスで、十五秒で起動する、高精細のディスプレイを備えたコンピュータだ"
  • p.149 G4 Cubeについて、ジョブズ。 "「Cubeは、テクノロジーはどうあるべきか、どのように機能するべきか、ユーザーに何を与えてくれるのか、という僕らのビジョンそのものなんだ。... 僕らは『これは要らない』と言い続けることで、この製品の開発を進めてきた。そして最後には本質だけが残ったのさ。"
  • p.162 ジョナサン・アイブ、アップル製品のデザインが芸術だと言われることについて。「芸術の目的は自己表現だけど、iPodは人々が好きな音楽を聴くための道具だ。その目的に奉仕するために、僕たちはあらゆる部分を作りこみ、絶え間なく改良を重ねてきたんだ。」「だから僕は、iPodを芸術だとは思わない。これは単なるデジタル音楽プレイヤーだよ。」

第五章 ダウンロード

  • p.209 "iPodは来月で三歳になる。僕らがこれに関わり始めたとき、誰も本当の意味はわかってなかったし、作っていた人間自身も、こんなヒットになるだなんて考えてもいなかった。"

第六章 アイデンティティ

  • p.228 "「未来はコンピュータ技術とともにあるのですね」" - ローマ法王、2GBの白いiPod nanoについて

第八章 シャッフル

  • iPodの登場で、人々はアルバム単位でなく、自分のもつ音楽ライブラリ全体をシャッフルして楽しむことができるようになった。それはあらゆるジャンルの音楽を順不同に並べるという新しい音楽の聴き方だった。
  • しかし完全なランダムは、ときに人間には「混ざっていない」と感じられるものだ。 "中には、非生物のはずのiPodがその場の雰囲気にぴったりのアーティストを選び、彼らの曲をかけてくれると信じているiPodユーザさえいた。" (p.288)

第九章 アップル

  • p.356 "アップルが貫いた「製品まるごと」戦略は、音楽プレイヤーとソフトウェア、オンラインストアの三つが緊密に結びついたiPodのシステムの大成功によって、ついに報われたわけだ。"
  • p.359 "株価は高いし、株主も満足している。... だが、これは僕らにとって一番危険な落とし穴なんだ。僕らはもっと大胆にチャレンジし続けなきゃいけない。僕らの競争相手は世界規模の大企業ばかりなんだから、現状に甘えているわけにはいかないんだ"